第6回 「帰国子女」から「サードカルチャーキッズ」へ

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ぴかぴか(新しい)「サードカルチャーキッズ(TCK)」とは、
  両親の生まれた国の文化を第一文化、現在生活している国の文化を第二文化とし、
  この二つの文化のはざまで特定の文化に属することなく
     独自の生活文化を創造していく子どもたち
、のこと。

『サードカルチャーキッズ』
の翻訳者のお二人が、サードカルチャーキッズの母親としての日常的な視点と、
研究者としてのアカデミズムの観点、の2つの立場から
「サードカルチャーキッズの今!」をお届けします!

今回で『「サードカルチャーキッズ」を知ろう!』は最終回です。

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                                        嘉納もも
私の担当するブログ記事はこれが最終回になります。

初回は「帰国子女」と「サードカルチャーキッズ」の違いについて、
2回目は異文化の中で育つ子どもを持つ親の心構えなどについて
私の意見を述べました。

今回は海外での学校選びについてお話しし、
そのあと今までの議論をまとめたいと思います。

海外での学校選びは親にとって「賭け」のようなところがあります。
どんな選択肢にもそれなりの利点や難点があるからです。
(本当におおまかに、ではありますが)それらを表にまとめると、こうなります。

日本人学校 現地校 インターナショナル・スクール
編入時 (困難少) ×(困難大) ×(困難大)
帰国時 (困難少) ×(困難大) ×(困難大)
赴任地間の互換性 (互換性有り) △(保証なし) (互換性有り)
現地社会との交流 ×(交流少) (交流大) ×(交流少)
異文化との交流 ×(交流少) (交流大) (交流大)

こうしてみると日本人学校という選択肢がある場合は、
それを選ぶのが一番、赴任時においても帰国時においても、
適応がスムーズに行きそうな感じです。特に駐在が3年程度であると
分かっている場合は、もっとも妥当な編入先であると言えるでしょう。
ただ、駐在が長期に及ぶと、現地社会からずっと孤立した状態が続いてしまう
のと、義務教育の中学校を卒業したあとは日本に帰る以外、
進路がないのが問題です。

現地校は赴任直後の適応が大変です。
親も子も不慣れな学校制度に戸惑うことが多く、かなり長い時間をかけて
馴染んでいかなければなりません。受け入れ側も外国人生徒に慣れているとは
限らないので、その点も不安があります。それでも滞在が長期間になってくると
現地社会との結びつきが強くなり、現地文化への理解も深まっていくという
利点はあります。ただ、帰国の辞令が出た場合、また別の国への赴任を
命ぜられたりした場合、また更なる適応期間が必要となります。


インターナショナル・スクールを選ぶと、
現地校とよく似た適応の問題が赴任直後、
そして日本への帰国時に起こります。また日本人学校の生徒と同じく、
現地社会との交流はそうそう期待はできません。しかしながら学校側が
外国人生徒の受け入れに慣れている点、同じような体験を持つ子どもたちに
囲まれているという点、そして次の赴任地でもまた(おそらく)
インターナショナル・スクールに編入できる(であろう)点で
主に英語をベースとした教育が継続でき、
文化的な混乱が軽減されるという利点があります。


駐在期間の長短、子どもの学年などによって最善のオプションを選ぶ
ことができればよいのですが、親でさえも赴任のタイミングや長さは
確定できません。しかも、上に挙げたような選択肢が全てどんな赴任地でも
揃っているわけではありません。ある意味、現地校に行くしかない、
日本人学校に行くしかない、といった状況であれば親は悩まないで済むでしょう。


兄と私が父の駐在でフランスに住んでいた1960年代には、
現地の公立校に行く以外、オプションはありませんでした。
兄は日本で小学校1年生のクラスに行き、
それから最初の赴任地のイギリスで現地校の1年生に編入し、
たった10ヶ月後にはフランスの学校でまた1年生に入ることになりました。
全く言葉の分からない環境の中で、兄は毎日ノートに絵を書いていたと
母は涙ながらに語っていました。


しかしそれ以外にどうしようもない、ということで親も子も開き直る
しかありません。父の駐在がその後10年に及んだことが幸いして、
兄は最初の適応期をなんとか乗り越え、
すっかり現地の生活に溶け込んでいくことができました。


1970年代にはパリに全日制の日本人学校が設立されました。
私の父は今さら編入する必要はない、と兄と私を現地校に残しました。
しかし大使館関係のF君たちはほとんど全員、日本人学校に通っていました。
私たち「現地校グループ」にとって、いつも日本人同士で固まり、
地下鉄に乗っても日本語で大声で喋っている彼らは異様に映りました。
しかし外交官はひとつの赴任地につき、
滞在期間が平均3年と比較的短いため、現地校に馴染む時間が惜しいと
親が考えるのはもっともだったのでしょう。


また、イギリスからパリに引っ越してきたMちゃんは
インターナショナル・スクールに在籍していました。
4年間のパリ滞在の後、彼女はまたイギリスに戻り、
それから今度はアメリカで駐在生活を経験しました。
この場合、一貫して英語での教育が継続されたことで
インターナショナル・スクールという選択は功を奏したといえます。


なお前回にも少し言及しましたが、
日本ではしばしば「帰国子女」の特徴は外国語力や外国の文化・社会の
知識にあると思われています。
この観点からすると日本人学校に通った子どもたちは「帰国子女らしくない」
ということになってしまいます。


しかし少なくとも母国を離れ、海外での生活を体験した子どもであれば、
著者ヴァン・リーケンたちは現地文化との接触の度合いにかかわらず
サードカルチャーキッズとしての特徴を有する、と言います。
私はカーナビのGPSにたとえて、非TCKが「日本国内の地図しか内蔵していない」
のに比べ、TCKは世界中の、とまではいかなくてもせめて2つ以上の国の
地図を備えているのではないかと見ています。
自分の国を「物理的に」外から見る、ということを経験している者には
自然と「心理的に」も自文化を客観的に捉える視覚が備わると考えるわけです。


あくまでもTCKや帰国子女の海外体験が「親の仕事の都合」によるものであり、
留学生のように自分の意志でもたらされたのではないという点と併せ考えると、
それ以上の特典を求めるのは必ずしも賢明ではないというのが私の持論です。



以上、3回にわたってヴァン・リーケンたちの著書を補足する形で、
国際移動する日本人の子どもたちについて解説してきました。
その子どもたちを「帰国子女」と従来どおりの呼び方で呼ぶ代わりに
新たな「サードカルチャーキッズ」という名称を使うことで、
より多くの人々が彼らの体験の本質を理解してくれることを願っています。


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多文化の間に生きる子どもたち

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著者:デビッド・C.ポロック、ルース=ヴァン・リーケン
訳者:嘉納もも、日部八重子

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第5回 東北関東大震災のあとに

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                                     日部八重子
3月11日、千年に一度という大地震が起きました。
多くの方が犠牲になり、また避難生活を余儀なくされています。
心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。



私は地震当日、子どもたちの学校に向かっていました。
地下鉄を降りた途端に大きな揺れに遭い、
よろめきながら駅の 階段をかけ上がり、子どもたちの学校に走りました。
急いで子どもたちを連れ出し、その後5時間かけて家に帰ってきま した。


長男は“帰宅困難者”になり、家に帰ってこられませんでした。
携帯電話も通じず、交通機関がマヒした状態のなかで、
学校は迅速な対応で急遽ホームステイ先を募り、
生徒たちを10数人単位で学校の近くに住む学校関係者の家に避難させました。
長男は友人の家で一夜を明かしました。


翌日長男が帰宅し、家族再会を喜びあったのも束の間、
今度は原発の問題が出てきました。
今回のブログは、私たち家族が現在直面しているジレンマについてです。


地震翌日の土曜日、
長男の学校に通う各国大使館関係子弟の友人たちが移動を始めました。
そして翌日の日曜日、フランス大使館が在日フランス人に
関東エリアからの退避勧告を促しました。
私たちは、その時点ではまだ様子を見ようと 、
いざとなればいつでも出発できる準備をしつつ家に留まっていました。
月曜日の昼前に二つ目の原発が爆発した時、
事態は好転していないと判断し、九州に行くことに決めました。


その時から私の気持ちの中で葛藤が生じはじめました。
大使館や外国人が次々と東京を離れていくなか、
東京にいる日本人には「こんな時にこそ結束してお互い助け合わなければ」
と家に留まり、節電に協力したり買い控えをしたりと自分たちができることを
こなそうと努力する、そんな風潮がありました。
ニュースでも、外国政府の決めたことだから仕方がない、と言っています。
現実の危険性とはあまり関係なくとも、
不安を抱えて異国で暮らす(旅する)同胞を安心させ、
助け出すことはその国の義務でもあるのでしょう
(フランス政府はチャーター機と政府専用機でフランス人を国外へ脱出させました)。
去っていく外国人を見て日本人は、
ウチの人間=「私たち」とソトの人間=「彼ら」という気持ちを強めたかもしれません。



では、「私たち」でも「彼ら」でもない、間(はざま)にいる私たち家族は
どうしたらよいのでしょうか? 

九州に飛んだ翌日、妹も子どもを連れて私たちに合流しました。
父をおいて、母も来ました。
父は関東は大丈夫だと言って家から動きませんでした。
妹と母はフランスの対応をみて、とりあえず九州までは来ました。
この時点で私たちのフランスやアメリカの家族・友人たちは
「帰っておいで」の大合唱です。

一方で東京・横浜の家族や友人たちは、
そこに留まり、普通の生活を送ろうとしています。
私は、子どもたちも春休みに入ることもあり、
休暇のつもりでフランスの義母の家にみんなで行こうと言いました。
しかし、妹も母も仕事や習い事が気にかかり、
一刻も早く家に帰りたい気持ちでいます。
しかも、夫たちを残したままで
自分たちだけがフランスに行くことはとてもできないと言いました。



今、私たちは九州に滞在を続けています。
家族や友人たちを残して日本を離れる気持ちにはなれない。かといって
東京に戻れば、フランスの義母は毎晩心配で眠れないことでしょう。
事態が一刻も早く落ち着いて、子どもたちの学校が再開し、
普通の生活に戻れる日を待ち続けるのみです。

次回は、嘉納ももさんです。6月10日更新予定です。



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第4回 「TCKの親であること」とは…

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                                                                                               嘉納もも
前回は「TCK」と「帰国子女」の違いについて私の見解を述べました。
今回は「TCKの親として気をつけなければならないこと」について触れたいと思います。


『サードカルチャーキッズ』の中で、私にとって特に印象的な言葉があります。
「家族を異文化環境に置くことを決断することは
親がTCKを育てる決心をすることである」というくだりです。

たとえば父親が商社に勤めているとしましょう。海外駐在の辞令を受けて、

「はい、行きます」

とそのお父さんが返事をすることは、

「はい、家族を何年かの間、海外に移住させ、息子(娘)に異文化体験をさせて、
その子がTCKになることを承諾します」

と言うことに他ならないのだ、と著者ヴァン・リーケンたちは言っているのです。

これは大変な責任なのですが、親たちは必ずしもそれをしっかりと認識した上で
海外に赴任しているとは限りません。

子どもをTCKとして育てるには、幾つかの困難を覚悟しなければなりませんが、
ここではそのうち、以下の二つに焦点を当てたいと思います。

1)国際移動のたびに、子どもの「社会化のプロセス」に断絶が生じかねないこと
2)長期的な異文化体験によって子どものパーソナリティ形成に影響が現れること

まず一つ目の困難について。
「社会化」とは平たく言えば、赤ちゃんが成長して社会の一員となるまでに、
様々な体験をし、たくさんの人々と交流し、
その社会で機能するための知識やルールを学んでいく過程です。

ずっと日本で育つ子どもの場合、
日本で暮らす上でのルールだけを学んでいけば大丈夫。
しかし、親の海外赴任でTCKになった子どもは、社会化の環境が日本だけでなく、
ある時期は「アメリカ」であったり、
また別の時期は「ドバイ首長国」であったりします。
そして移動のたびに新しいルールを身に付けることになります。

ルールが変わっても上手く順応する子はいますが、それができない子もいます。
特に海外から日本に戻ったとき、ルールの変化に適応できない場合には
親子で苦悩することになります。

いずれは日本に帰ることが決まっているのだったら、
どこに行ってもそれを念頭において、
親が子どもに日本で通用するためのルールを教えればよい、と思われるかもしれません。
言語はもちろん、日本の学校の勉強やいわゆる「常識」のようなものも
海外滞在中に教えることができれば、もちろんそれに越したことはありません。
しかしちょっと考えてみれば、それがいかに難しいことなのかは明らかでしょう。

帰国生支援団体のセミナーなどでは、
「海外にいる間も、ちゃんと帰国後の進路を考えていないと大変なことになりますよ」
という警告がよく発信されます。

それは確かに妥当なアドバイスなのですが、
日本から赴任して間もないお母さんが
「現地の学校に子どもをやっとこさ通わせて、
自分も生活の基盤を一から築いて行くので精一杯なのに、
その上、帰国後のことを考えろなんて言われても無理です」
と言った言葉にも、ついうなずいてしまいます。

また、新しい環境に慣れてくれば今度はその日常にどっぷりと浸って、
帰国後の生活は遥かかなたの、現実味の薄いものに思えてきます。
浦島太郎が竜宮城にいるような感じ、と言ったらよいでしょうか。

それでももちろん、日本への帰国に備えて日々涙ぐましい努力をしている
駐在員親子は大勢います。ただ、それを長期的に続けることは多くのストレスを伴う、
とだけは言っておきましょう。


次に、二つ目の困難について話を移します。
長期的な異文化体験は子どものパーソナリティの形成に影響を及ぼすと
考えられていますが、親もその結果を予測することがなかなかできません。
いや、実は親自身がその影響を軽視してしまう、という場合もあるのです。

外務省の平成22年度の統計によると、
67,000人以上の学齢期の子どもたちが世界各地に滞在しています。
私はこの統計において過去10年の間に、
特に顕著に現れるようになった一つの傾向に注目しています。
それは海外子女の「日本人学校離れ」という現象です。

従来、北米では9割以上の海外子女が現地校に通うのに対して、
アジア諸国ではその反対で9割が日本人学校に通う、というのがパターンでした。
これは親たちが赴任先の学校制度をどのように評価しているのか、ということを
如実に示しているのですが、それでは何故、近年、アジア圏では
日本人学校に通う子どもが激減(H22年は5割以下)しているのでしょうか。
それほど現地校への評価が上がったからでしょうか。

いいえ、そうではありません。
日本人学校に通うかわりに、アジアの海外子女はインターナショナル・スクールに
大挙して行くようになったのです。

これは前回の記事にも書いたように、
駐在員の間でも「帰国子女のステレオタイプ(=英語が堪能、異文化体験が豊富)」が
しっかりと根付いていることが原因だと考えられます。

「せっかく」海外駐在をするのに、
日本人学校に入れてしまえば異文化体験の度合いが足らない、と
親は思うのでしょうか。英語圏ではないけれど、インターナショナル・スクールに
子どもを入れた方が「帰国子女らしい帰国子女」になってくれる、と。
実際、私がアジア圏の駐在員家庭を取材した時にそのような話を多く耳にしました。

本来、TCKの異文化体験は国際移動する家庭のライフスタイルの単なる「副産物」で
あったのに、それを「特典」と位置づけるようになっているとすれば、
それは危険な考え方だと私は思います。

子どもの社会化のプロセスにおいて文化環境が著しく変化すると、
それが上手く作用して豊かな体験となるケースもありますが、
親子ともども多くの苦悩を背負うケースも出てきます。
自分自身が異文化環境の中で育っていない親には、
それこそ想像だにできない状況が発生することもあります。

そのような危険性があるからこそ、
TCKの親の責任としてはいたずらに子どもを取り巻く文化的環境を
複雑にするのではなく、選択肢がある場合はなるべく一貫性を保つように
するほうがよいのではないかというのが私の持論です。

もちろん、どんな場合でも日本人学校に入れ、
日本への帰国だけを念頭においた生活をさせたほうがよい、と
言っているのではありません。

次回の記事ではこの点も含め、さらに議論を進めて行きたいと思います。

                                      
 
                                    次回は、日部八重子さんです。4月10日更新予定です。


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第3回 10年ぶりの日本で…

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                                     日部八重子
前回は夫の急な転勤に伴うバタバタ状態をお話ししました。
この2ヶ月の間にアメリカから日本への引っ越しを済ませ、
子どもたちも新しい学校に通い始めました。


長男の学校選びですが、もし学校が見つからなかったら
夫に転勤の話を断ってもらわないといけない、と思いつめていましたが、
最終的に2校から受け入れ許可の連絡をもらいました。
そして長男は共学・無宗教のインターナショナルスクールを選びました。


子どもと一緒に学校を訪問することはとても大切だと思います。
「どうしてこの学校を選んだの?」と聞くと「ふうん、そんなことで?」
と私がつい言ってしまうような理由を挙げるのですが、
言葉では表現できない体で感じる部分があるようです。
たとえば、そこにいる生徒たちの様子や表情・学校事務や先生たちの様子、
といったものでしょうか。


そして学校に通い始めて約2ヶ月。長男は水を得た魚のように楽しんでいます。
本書の中で、TCKは人との交流の深いレベルまで一気にジャンプしてしまう
傾向があるとありますが、まさのその通りで、
各国から集まってきたクラスメートたちに初日から溶け込み、
長男はすぐに心を開きました。
急がなければ次の移動になってしまう、そんな切迫感から社交辞令を省いて
すぐに深い感情レベルの関係に進展するTCK、長男は
今、一日一日を大切に過ごしています。

やっと同じようなバックグラウンドの仲間に迎え入れられた長男、
浮き足立つのはいいのですが、気になる発言もあります。
恋焦がれて帰ってきた日本のはずなのに、
時々、日本・日本人に対するバッシングの言葉がつい口を衝いて出てくるのです。
他人に対する苛立ちや見下した態度によって
自らのアイデンティティーを認識するTCK、
自分たちは特別なのだと時々勘違いしてしまうことがあります。

確かにTCKは多国語を操ったり、様々な経験をしてきたり、
年の割には知識が豊富かもしれません。
一つの国に留まっている同年代の人たちよりも幅広い見方ができるでしょう。
でも「知識の豊富さ」=「知識の高さ」ではないのです。
その点を長男にも気づいてほしいと思います。
ただ、他人へのバッシングはアイデンティティーの揺らぎ・不安の表れでもあるので、
慎重に様子を見ていきたいと思います。


さて、次男・三男はリセ東京(フランス人学校)に通い始めたのですが、
それぞれ適応過程です。本書「あとがき」にも書きましたが、
次男は性格的に思い悩むといったことがあまりなく、
今回も比較的すんなりと日本の生活に移行したように見えます。
アメリカ・ニュージャージーではフレンチスクールに通い、
英仏バイリンガル教育だったので、こちらのフランス人学校でも
バイリンガルクラスに編入しました。

英語話者が多かったアメリカに比べ、フランス語話者が多い東京では、
多少フランス語のレベルが高いようですが、ストレスを感じるほどではないようです。
でも、これは性格によるものがとても大きいように思います。
日本語補習校に通っていたこともあり、
毎日一時間の日本語クラスも問題なくこなしています。


三男はアメリカで英語オンリーの保育園に通っていたので、
突然のフランス語環境にとまどっています。
フランス語の授業の日には毎日泣いているようです。
ただ先生方も手慣れたもので、バイリンガルクラスにおいては、
不得意な言語の日に子どもは不安になるけれども、
たいていの子どもは数ヶ月で適応するので大丈夫、
と環境・事情をよく把握してくださっています。


夫は新しい職場で日本人の同僚と働き始めました。
さて私ですが、自分の国へ戻ってきたとはいえ、
駐在生活のスタイルは、英語の通じる歯医者探しに始まるなど、
以前の生活とはずいぶん異なります。
また収入はいまだにアメリカなので、
日本への送金問題など煩雑な手続きも残っています。
日本の運転免許証はアメリカ在住の間に失効していて、
身分証明もできません。


日本の生活を100パーセント満喫できるようになるまでには、
まだちょっと時間がかかりそうです。

次回は、嘉納ももさんです。2月10日更新予定です。



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訳者:嘉納もも、日部八重子

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第2回「帰国子女」と「サードカルチャーキッズ」

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                                        嘉納もも
こんにちは。
前回のブログ記事を担当した日部八重子さんと
『サードカルチャーキッズ』を共訳した嘉納ももです。

国際移動の真っ只中にいる日部さんは
「当事者」としての臨場感あふれるレポートをお届けしていますが、
私はちょっと違った「研究者」の立場からの記事を書いていこうと思います。

 

私が「サードカルチャーキッズ」(以下TCK)という言葉を
自分の授業や研究の中で使い始めたのは2003 年のことでした。

TCKと同じように、親の仕事の関係で海外渡航し、
戻ってくる子どもたちのことを日本では「帰国子女」と呼びます。
ではちゃんと「帰国子女」という呼び名があるのに、
なぜ「TCK」を改めて用いる必要があるのでしょうか。


この二つを比べた場合どんな違いがあるのか、
について私が感じていることを今日はお話しさせてください。

 

「帰国子女」と聞くと、皆さんはどのような人たちを思い浮かべるでしょうか。

大学で「帰国子女論」という講義を担当していた時、
私はいつも最初の授業で学生にアンケートを取るようにしていました。
200人以上の受講者の回答をまとめると、
大多数が「小学校低学年から中学校まで、欧米諸国に長期間滞在し、
外国語(特に英語)が堪能で、帰国時には日本語が少し不自由」という
帰国子女に対する「イメージ」を共有していることが判明しました。

面白いことに毎年、ほとんど同じような結果が出てくるのです。


このようなイメージがいつから、どのように形成されて来たのか、
についてはまた別の機会にお話しするとして、
とりあえず日本人の間では帰国子女の存在が広く知られているという点と、
「ステレオタイプ」ともいえるほどの非常に偏ったイメージが共有されている、
という点が学生アンケートから伝わってくるのではないでしょうか。


一方TCKは、著者のポロックとヴァン・リーケンによると、
本国(アメリカ)でその存在が最近までほとんど注目されることはなかったようです。
他にも外国からやってきた人たち(たとえば移民や留学生など)が大勢いることから
その中に埋もれてTCKは目立たないのだ、と著者たちは指摘しています。


周囲の人と言葉が通じないわけでもない、外見的に特に変わっているわけでもない。
それなのになぜ違和感を覚えるのだろう、とTCKの多くが疑問を持ちます。
理由が分からないために孤立したり、体験を封印したりしてしまいます。
その違和感が、小さい頃から国際移動を経験し、
厳密にはどこの国の文化でもない「サードカルチャー」の中で育ったことから来るのだ、
と教えられた時、TCKたちが大きな安堵を覚えるのはそのためでしょう。


こうしてみると、「TCK」という名前が解放感を与えるのに対して、
「帰国子女」というレッテルは非常に限定的な、束縛の強いものだと私は思います。


それは学生アンケートにも見られるとおり、
帰国子女には何らかの「外国生活によってもたらされた成果」みたいなものが
期待されているからではないでしょうか。


もっと平たく言えば、「外国語(特に英語)ができること」、
「外国(これも要は欧米諸国)の文化や外国人の思考パターンに馴染みが深いこと」
などが帰国子女には当然、求められるということです。
実際にこのような期待に応えられる場合はよいでしょうが、
たいていの人には相当なプレッシャーになります。

 

ある年、お父さんの駐在に伴ってマレーシアに何年か滞在したという学生が
私のゼミに入ってきました。
彼女は「ずっと自分のことを帰国子女じゃないと思っていた」と言いました。
なぜなら海外に住んでいたといっても、
クアラルンプールの日本人学校に通っていたし、
現地の人と親しく交流した経験もなく、英語がそう得意でもないので、
「いわゆる」帰国子女のイメージに当てはまらないから、というのが彼女の説明でした。

TCKという呼び名に出会い、
その学生は生き生きとして自分の体験を元にした研究を完成させました。
日本人学校の同窓生にインタビューを行った結果、
従来の帰国子女研究からは
なかなか浮かび上がってこなかった体験談が収集できたのです。


ほんの一部の人の体験しか反映していない
「帰国子女」のステレオタイプを見直すことももちろん大事ですが、
新たに「TCK」という概念を用いて国際移動する子どもたちの体験を
解釈するのもよいかと思います。


次回は著者のポロックとヴァン・リーケンたちが
「TCKの親として気をつけなければいけないこと」として挙げている点
についてお話ししたいと思います。

次回は、日部八重子さんです。12月10日更新予定です。

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訳者:嘉納もも、日部八重子

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第1回 学校探しの旅に…

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みなさま、こんにちは。
『サードカルチャーキッズ』翻訳者の日部八重子です。
これから共訳の嘉納先生と交替でブログを書かせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。


まず、現在の転勤に伴うバタバタ状態からお話ししていきたいと思います。
夫はいわゆる転勤族で、私たち家族はこれまで様々な国に住んできましたが、
今、日本への転勤話が出ています。約10年ぶりの日本です。

日本から出た当時、夫は日本企業に勤めていましたが、
転勤先のアメリカで同業他社のアメリカ企業に転職したので、今回はいわば「逆駐在」です。

そのため、ちょっとしたパニック状態のまっただ中にいるのです。
こんなにも慌てて子どもの学校選びなどをして、本当によいのだろうか、と。
転勤の話は以前から出ていたものの、その確度が高まってきたのはつい最近。
子供たちが夏休みを日本の祖父母・いとこの家で過ごしている最中でした。
子どもたちを迎えに行き、アメリカに連れて帰るはずの旅が、
急きょ学校探しの旅になってしまいました。

日本に着いて早速、長男と一緒の学校訪問です。
まず一校目。その場ですぐにクラス分けのための学力測定テスト。
結果、長男の数学のレベルが一年遅れていることがわかり、
(アメリカの学校は遅れているんですね)さらにアメリカの学校での成績が
芳しくないこともあり、入学を断られてしまいました。
コーディネーターは「学習障害」があるのなら、そういう子どもを受け入れている学校も
視野に入れたほうがいい、と助言してくれます。
 

そこで、すべての学校の願書に、成績表と共に、ずっとかかっているカウンセラーの
手紙を付けることにしたのです。それは「学校の成績がよくないという理由で
親に連れてこられたが、各種テストの結果、すべての分野において問題なし」
というものです。ただ、願書に「今までに勉強面で問題があった」と
書かなければならないので、それがはたして得策なのかどうか、悩むところです。


また、本人はインターナショナルスクールがいいと言っているのですが、
数年でまたアメリカに戻ることを考えると、
アメリカンスクールの方がいいのではないか、とも考えました。
ただ長男がアメリカ国籍を持っていないこともあってか、
アメリカンスクールではそっけなく「9年生(日本では中学3年生にあたり、
アメリカでは高校入学の年)は定員いっぱい」と言われました。
昨今の日本人によるインターナショナルスクールブームで、
日本人の私からの問い合わせメールはあまり重きをおかれなかったのかもしれません。
夫の名前と会社を出して、アメリカ永住者だということを返信したら、
やや言葉が柔らかくなった感がありましたけれど…。
結局、アメリカンスクールも定員と成績を理由に断られてしまいました。
 

私も転勤に伴って、大学の日本語講師の仕事を辞めなければなりません。
ここニュージャージー・プリンストンに去年マイホームも購入したばかりで、
しばらく落ちつこうと言っていたのに、またの移動です。
子どもたちは日本に行くことを喜んでいるのですが、
今の時点で失うものが何かを自覚しているわけではないようです。
そんなこんなの状態で、心身共に揺れに揺れている今日このごろです。


次回のブログでは、その後の事の進展をご報告できるかと思いますが、
今はとにかく、9月末の転勤に向けて、子どもたちがここでの生活に
健全に区切りをつけ、新しい土地(長男は「帰国」だと思っていますが)
での生活が順調にスタートできるよう、親としては最善の努力を尽くしていくだけです。
 

                              次回は、嘉納ももさんです。10月8日更新予定です。

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サードカルチャーキッズ 
                       
多文化の間に生きる子どもたち

9月9日発売ひらめき

定価:1600円+税
著者:デビッド・C.ポロック、ルース=ヴァン・リーケン
訳者:嘉納もも、日部八重子

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