更新日9月10日
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。
夏―!(多分この挨拶を使うのは、今回が今年最後……だと思います)
暑すぎだった8月、みなさんはどのように過ごされたのでしょうか。
わたしの8月は、甲子園観戦と北京五輪観戦で過ぎていきました。
当然、どっちもテレビですけど。
スポーツ、昔はまったく興味がなかったんですけど、
ここ数年、夏の甲子園は、かなりの楽しみとなっています。
自由業であることに感謝する季節です。
(一方、周囲の友だちが、ボーナスの話をしていたりするので、
自由業であることをくやしがる季節でもあります)
ちなみにプロ野球では日本ハムを応援しています。
北海道だからという、選手やプレーとは全然関係のない理由ではありますが。
<今月の作品> 〜第8回テーマ「部屋」〜
部屋に行くまでは
二杯目のカクテル(なんとかミルク、だった気がする。名前を憶えていない
けど、目の前のグラスに入ったそれはピンク色だ)を飲みながら、エリコが何か
言いたげにこちらを見る。頬が少しだけ赤いのは、早くも酔っているからだろう。
三杯目のビールを飲みきってから、なんかあったの、と聞いた。もっとも、
聞く前から察しはついている。
「別に気にすることじゃないだろうな、とは思うんだけど」
そう言って、また口をとじた。早く聞きたい気もするけれど、せかすのもいや
だったので、ポテトをつまんだ。ここのポテトは、ニンニクと塩こしょうが
きいていて、うまい。しばらく沈黙が続いた後、ようやくという感じで、エリコ
が続きを話す。
「最近、ヨシフミさんがちょっと変なんだ。行動がおかしいっていうか……。
土日とか、一緒に家で過ごしてても、やたら外出するんだよね。飲み物買って
くるとか言って、飲み物あるじゃんって言っても、いや別のが飲みたいからって、
冷蔵庫に入ってないものを買いに行くんだよね。コーヒーがあるときは紅茶、
紅茶があるときはコーヒー、とかいう感じで。しかも、コンビニなんてすぐそこ
なのに、長いときは三十分くらい戻ってこなくて、すごいあやしいじゃん?
聞いたら、雑誌読んでたとか言うんだけど。絶対携帯電話持っていくし」
さっきの沈黙を取り返すかのように、勢いよく話すと、ふう、とため息のよう
な呼吸をついて、なんとかミルク、を再び飲んだ。
「それは、気にすることだろう」
何を言っていいかわからないので、仕方なくそれだけを言うと、やっぱりそう
かな、とエリコは小さく笑った。俺は思わず苛立ってしまうけれど、苛立ちが、
エリコに対してのものなのか、「ヨシフミさん」に対してのものなのか、
あるいは自分自身に対するものなのかわからない。どれも違うし、どれも正解
なのだ、きっと。
「気になるなら、ついていってみればいいじゃん」
俺の提案に、エリコはすぐさま言葉を返す。
「そう思って、何度か言ったの。じゃあわたしも行こうかなとか、代わりに
行ってこようかとか。でも、いやいいよ、みたいに軽―く流されちゃって。
こっちも、そんなしつこくするのも変じゃん? 気まずい雰囲気になっても
いやだし。だから結局はあきらめちゃうっていうか」
っていうか、で話を終わらせる口癖は数年前から変わらない。
「別れりゃいいのに」
思わずこぼれた俺の言葉に、エリコがさっきよりもはっきりと笑う。けれど、
痛々しい笑顔だ。少し痩せたかもしれないな、と思った。聞こうかとも思った
けれど、会って何時間も経つのに、と言われるのがあまりにも目に見えている
のでやめた。
「別れた方がいいのかな。やっぱり」
さっきまで笑っていたはずのエリコの声のトーンが、一気に落ちる。慌てて
表情を確認すると、うつむいていたので、やばい泣くかも、と思ったけれど、
エリコはすぐに顔をあげて、メニューを手に取った。次は何飲もうかな、と言う
声は明るいけれど、もちろんわざとそういう声を出したのだとわかった。
別れろよ。俺と一緒にいればいいじゃん。
俺は言う。心の中でだけ。今までにもう何度も繰り返した言葉を。
けして実際に口に出すことはないであろう言葉を。
「送ってくよ」せめてマンション前までは そこから先はあいつが待ってる
(さくら)
今回もたくさんの投稿をありがとうございました。
初めての方も多くいらっしゃって、大変嬉しいです。
反面、もしかすると、自分でも気づかない部分で、
常連の方に厳しくなってしまっているかも……。
だけど今後も、どんどん投稿していただきたいと思ってます。
よろしくお願いします!
三度目の花火もここから見るつもりだった さよならレインボウハイツ(小野伊都子)
ストレートでありながら、思わず背景を想像してしまう、完成度の高い歌ですね。
窓際で本を読んでるきみの顔 思い出したくなる、ときどきは (MOMO)
句読点の入った歌は、あまり好きではないのですが、これに関しては、いい使い方
だと思いました。
密室の男女に何も起こらない謎がもうすぐ成立します(伊藤夏人)
そうか、あのときも、別のあのときも、全て謎だったのか……。知りませんでした。
手の届くところに全部置きたがる君の部屋から出て行くわたし(ウクレレ)
わたしも、冬、コタツの周囲がそんな状態(全てを手の届くところに!)になります。
二人だと狭く感じたあの部屋に置きっぱなしのいろいろなこと(わだたかし)
もう少し具体性があったほうがよかった気もしますが、うまくまとまった一首ですね。
伝説の寝言もいつものおはようもみんなみんなここで生まれた(伊藤真也)
わたしが今まで聞いて印象的だった寝言は、「議長!」と「水木しげるは出馬するの?」です。
夕陽さんそろそろ空へお帰りよこの部屋だって借りてるんだし(たむぼりん)
独特な主張や理由がおもしろかったです。
スーツケースひとつの荷物で生きていたい こんな様子じゃきっと無理だが
(ハセガワヨーコ)
個人的に、今回一番共感した歌でした。本当に、そう生きたい!
この言葉はあの日の二人を記憶して海の底への入り口となり(纏亭写楽)
わかりづらい部分もありますが、不思議な雰囲気を出すことに成功していると思います。
どうしよう,どこに座ればいいのだろう まだきみの手をにぎってないし(みおり)
そこに境界線があるんですね、なるほど! ,は不要かなと思いました。
蒸し部屋で互いの髪を染めあった 明るいバカでいようと決めた(杉田亮介)
後半、キャッチフレーズのようでいいですね。付け句にもなりそう。
<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>
ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「病院」です。
もしかして今までで一番難しいテーマかも……?
独自性が出て、おもしろくなるかなーと楽しみな気持ちもありますが。
以下は募集要項です。
10月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)
そして、以下、病院をテーマに詠んだわたしの作品です。
わりと暗い内容となってしまいましたが。
(加藤千恵)
