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漢字でよむ おくのほそ道 第23回
大垣

漢字でよむ 奥のほそ道
2007年9月26日



大 垣


■ 原文 ■


露通も此みなとまで出むかひて、みのゝ国へと伴ふ。駒にたすけられて大垣の庄に入ば、曾良も伊勢より来り合、越人も馬をとばせて、如行が家に入集る。前川子・荊口父子、其外したしき人々日夜とぶらひて、蘇生のものにあふがごとく、且悦び、且いたはる。旅の物うさもいまだやまざるに、長月六日になれば、伊勢の遷宮おがまんと、又舟にのりて、
  蛤のふたみにわかれ行秋ぞ

oku23.jpg




原文出典:『芭蕉 おくのほそ道』岩波書店



■ 訳 ■


(はじめ、同伴者に予定されておった)露通も、この敦賀の港まで出迎えてくれ、美濃の国へと同道する。馬に助けられて大垣の庄に入れば、曾良も伊勢からここまでやって来ており、越人も馬をとばして宿所である如行の家に集まる。

それからというもの、前川子・荊口父子その他、親しい人々は日毎夜毎尋ねてくれて、まるであの世から蘇ったものと再会するよう。悦びあい、そしていたわりあう。

ところで、今年の9月6日は、21年目の伊勢遷宮の年である。ぜひとも参拝に出かけなくてはならない。旅のつかれの未だ残った状態ではあるけれど、かの二見が浦へと、旅立たなくてはならない。伊勢湾の名物は蛤。その蛤の二つ身に分かれるように―。

  蛤のふたみにわかれ行秋ぞ



■ 注釈 ■


春夏秋冬を括弧(かっこ)する ―「おくのほそ道」の構成

昔私立中学校において、「おくのほそ道」を教材にしたことがある。
一章々々、手書きのプリントを作って最終章を配ったとき、生徒たちは大いに感動の表情をした。

最後が「行く秋ぞ」ということばで括られていることについてである。
「行春や鳥啼魚の目は泪」の、「行く春や」で始まり、「行く秋ぞ」でしめくくる。その時間の括り方に感動するというのである。

もちろん途中の紀行文の豊かさもさることながら、春夏秋冬、四季それぞれ豊かな日本の風土を見事に括っているではないか、というのである。

「おくのほそ道」の作品の完成は、その跋文(ばつぶん…あとがき)によれば、元禄7年初夏、実際の旅立ちは、それより、5年前の元禄2年、旧暦の3月27日である。芭蕉さんが45歳の時であり、約6か月におよぶ長途の旅であった。

旅には、始まりがあって、終りがある。そしてその間は、旅のつづきである。…つづきといっても、それは一様にして、唯、のっぺりしたつづきではない。それは節目(ふしめ)節目のある流れであるのが普通である。

「おくのほそ道」の文章にも、その節目節目がうつしだされている。いわゆる「起承転結」のある作品である。では、「おくのほそ道」の起承転結の「起」はどこであるか。それは、いうまでもなく、春3月の旅立ちの時であるのかといえばそうではない。

「おくのほそ道」という作品の「起」は「白川の関」の章である。それは、文章上に、あきらかに表現されている。即ち、「心許(こころもと)なき日かず重るまゝに、白川の関にかゝりて旅心定りぬ。」と書かれているではないか。

三段跳びという競技に喩(たと)えよう。白川の関に到るまでの部分は、助走の部分である。もしかすると、それにつづく、跳躍の部分は実現しないかもしれない部分である。

“白川の関にかかりて旅心定りぬ”

だから、ここからが「ホップ、ステップ、ジャンプ」、起承転結の部分となる。

「白川の関」が「起」であり、「市振の関」が「転」、そして、その間が「承」であり、「市振の関」のあとは、一気に「大垣」の「結」へとすすむ。

日本の一年間は、ただの、のっぺらとした時間の流れではなく、春夏秋冬、四季のある時間である。

それと同じように「おくのほそ道」も、起承転結のある作品なのである。










【著者プロフィール】 伊東信夫(いとう・しのぶ)

1926年、山形県生まれ。白川漢字学の系譜に連なる漢字研究家。
1947年、山形の冬季分校の教師となって以来、長く教職に携わる。
現在は、漢字学の研究と共に、子どもや教師たちに漢字のおもしろさを伝えるため、各地で講演するなど、活躍中。主な共著書に「漢字カルタ」「漢字はみんな、カルタで学べる」「漢字がたのしくなる本」シリーズ(いずれも太郎次郎社)、「成り立ちで知る 漢字のおもしろ世界」シリーズ(スリーエーネットワーク)がある。
現在、立命館大学 白川静記念東洋文字文化研究所客員研究員。







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