更新日3月10日
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。
暦の上では春ですが、全くあったかくないですよね!!
2月中旬に、友だちと函館旅行したのですが、
あまりの寒さに、よく生きて帰ってこられたな、という気持ちになりました。
函館山からの夜景は、世界三大夜景というより、
世界三大吹雪というのを実感しました。
でも食べ物が本当においしかったし、街並みも綺麗で、
すごく楽しい旅行だったのですが。また行きたいなー。
あと今回、投稿された中に、偶然にも、函館が出てくる短歌があったりして、
なんだか嬉しかったです。下で紹介させていただいてます。
(もちろんその偶然だけでなく、内容に惹かれたんですけど)
ではでは、今月の作品にうつります。
<今月の作品> 〜第2回テーマ「坂」〜
転がっていく
足は冷やさない方がいいよと彼がしつこく言うので、わたしは思
わず怒った。そうだね、足は冷やさない方がいいし、不倫はしない
方がいいよね、という嫌味を付けて。
「祐子はまたすぐにそういうこと言うんだから」
「だって嫌いなんだもん、靴下」
「だからって、不倫とか持ち出すことないでしょう」
むしろなんだか楽しそうな様子で、彼はわたしのほっぺを軽くつ
ねった。子ども扱いじゃん、と思いつつも、わたしはわたしで、そ
んなに嫌な気はしなかった。
「今度、室内履き買ってあげるね。あったかいスリッパとか」
そう言いながら帰り支度をする彼に、どうせ買ってもらうならプ
ラダの靴とかがいいなあ、と返した。じゃあ白い室内履き買って、
黒いマジックでプラダって書いてやるよ、という彼の言葉は、付き
合い程度に笑って流した。
狭い玄関で、軽くキスをしてから、彼は帰っていった。途端に、
足の裏からフローリングの冷たさが伝わってくるような気がして、
室内履き、ほんとに買ってもらおうかな、と思い直した。
翌日の夜になって電話がかかってきたので、やっぱり室内履き買
ってほしいな、とお願いしようと思ったのに、もしもし、という声
だけでもう、そんな状態じゃないのがわかった。
単純な話だった。奥さんにバレたから、もうわたしとは付き合え
ない。わかりやすく、シンプルで悲しい話。冗談だったらいいのに
なあって思いながら、今にも泣きそうな彼の声を聞いていた。わた
しだって泣きたいけど、うまく涙なんて出てこない。
何を言ったのかもよくわからないまま、切れた電話とわたしが部
屋に取り残される。自分がどんな相槌を打ったのか、すぐさっきま
でのことなのに思い出せない。何を言ったとしたって、どうしよう
もなかったということだけはぼんやりとわかっていた。
信じられない。
不倫なんていう言葉から、ずっと遠く離れた関係のように思って
た。わたしが彼を好きで、彼がわたしを好きで、だけどたまたま、
彼が結婚してるっていうだけで。だからこそ、ネタにして笑いあう
ようなこともできたのに。
信じられない。
奥さんにバレたからって、簡単に別れてしまうことができるだな
んて。だってあんなに好きとか大好きとか愛してるとかずっと一緒
にいたいとか離れたくないとか、そんなふうに交わした言葉たちは、
一瞬にして嘘になったり、消えてしまうようなものじゃなかったは
ずなのに。
信じられない。
いつか結婚したいとか子どもが欲しいなんて思ってないし、ただ
ずっと、手をつないでいたかっただけなのに。不可能なことじゃな
いと思っていたのに。
信じられない。
わたしと彼の恋は、あくまでもわたしと彼の恋であって、誰かが
そこに介入したりできるものじゃないのに。
信じられない。
いつまでも、どこまでも、行ける気がしていたのに。見たことも
ないような場所まで。それがたとえ、どんなにひどい場所であって
も、2人なら、なんとかなるはずなのに。2人なら。2人でいれば。
視線を下げると、自分の素足があった。薄いピンクのペディキュ
アははがれかけているし、爪も伸びている。足は冷やさない方がい
いよ、と彼の口調を真似て、小さく声に出してみた。当たり前だけ
ど、全然、似てなかった。全然、全然、似てなかった。
坂道を転がるくらいの覚悟ならできてるんだと思っていたの
(やまよし)
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