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第1回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“中華街”

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更新日2月12日

<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。
今回から、ついに、内容をリニューアルということで、
タイトルも『かとちえの短歌ストーリー』となりました!
どうか今まで同様、そして今まで以上に、
どうぞよろしくお願いします。
これを機会に、見ているだけだった方の投稿が増えると嬉しいです。
もちろん今まで常連だった方にも、期待してます!
そして、ご意見などもどしどしいただけるとありがたいです。
そちらもよろしくお願いします。


<今月の作品> 〜第1回テーマ「中華街」〜

  肉まん

 待ち合わせ場所である、駅の北口改札前に、ソウくんはまだ姿を
現していなかった。予想通りだったので、驚きはしなかったけれど、
少しだけ不穏な気持ちになり、それでいてどこかで安心も覚えた。
 今のうちに帰っちゃうのもありかもしれないと考えていると、後
ろから肩を叩かれたので、身体が大げさにびくっと反応した。慌て
て振り向くと、そこには笑みを浮かべて立っているソウくんがいた。
いつもより緊張して見えるけれど、それはわたしが緊張しているせ
いかもしれない。
「そんなに驚かれると思わなかった」
 そう言いながら改札に向かう彼の、後ろを付いていく。初めて見
る紺のダウンジャケットを着ているソウくんは、イメージよりも背
が高い感じがした。
「っていうかさ、遅れて来たんだから、謝罪しなよ、謝罪」
「法学部の人は、すぐに謝罪とか言い出すからなー」
「それは関係ない。とにかくなんかおごってもらうからね」
「えー。真理ちゃんってばこわーい」
 なんだか必要以上に明るく振る舞っているみたいだ、と思いなが
ら、ホームに並んで、やって来る電車を待った。冷たい風が頬に刺
さるので、何度か手で顔をさすりながら。

 電車の中、わたしたちは、ずっとしゃべっていた。たとえば共通
科目『言語と社会』の教授の口癖について。ソウくんのバイト先で
あるカラオケボックスに現れる変な客について。好きなバンドの新
譜について。沈黙を怖がるかのように話し続け、笑うわたしたちは、
けれどルールであるかのように、ある一つの単語は絶対に出さなく
て、それがかえって、あることを意識させつづけた。
 その話題に触れたのは、中華街にやって来て、パンダグッズだら
けのお店に入ってからのことだ。
「ねえ、これ、あいつ好きそうじゃない?」
 中国風の曲を鳴らしながら、電池で動くパンダのおもちゃを手に
とって、ソウくんは言った。笑いながら大きくうなずいたわたしも
また、近くに飾られていたパンダのキーホルダーを手にとって、こ
れも好きそうだよ、と言った。それが合図だったみたいに、わたし
たちはあらゆる商品を手にとって、騒ぎ出した。
 これは絶対、由美の好きなタイプのパンダだよ。
 あ、これ、由美の家で見た気がする。
 これは由美に言わせると「ダメパンダ」だろうなー。
 もう、このお店ごと由美にプレゼントしたいよね。
 長い時間をかけて、ソウくんが選び出した由美へのプレゼントと
は、パンダ柄のパジャマとパンダの写真付き卓上カレンダーだった。
彼が会計を済ませている間、わたしは由美から、ソウくんのことを
初めて紹介された日のことを思い出していた。
「紹介するね。この人が宗治。つきあうことになったんだ」
 あの日の由美の笑顔を、くっきりと、覚えている。

 ソウくんが、パンダ好きの由美へのプレゼントを買い終えてしまう
と、わたしたちには中華街に留まっている理由がなくなった。それな
のに、駅の方には向かわずに、ふらふらとあたりを歩いている。なん
か家出みたいだよねえ、と笑うこともできない。
 唐突にソウくんが足を止め、何かと思ったら、肉まんを買っている。
せいろから出る湯気は、見ているだけでもあたたかそうだ。じっと見
ていると、買ったばかりのそれを手渡された。
「これ、今日の遅刻のお詫びってことで。あと付き合ってくれたし」
 渡された肉まんは、見た目通り、あたたかかった。一口頬ばって、
おいしい、と言うと、俺も一口食べたい、とソウくんが言う。手渡す
と、勢いよく頬ばり、熱い、と少し大きめの声で言う。思わず笑いな
がら、再び手渡される肉まんを受け取る。
 ねえ、やっぱもう一口ちょうだい。えー、だってこれ、お詫びじゃ
なかったの。思いのほかおいしかったからさあ。もう一つ買えばいい
じゃん、今度はあんまんでもいいよ。どんだけおごらせる気だよー。
けど、お詫びとお礼にしては安すぎじゃん。俺、貧乏な学生なんだか
ら、そこは出世払いで一つ。
 楽しげに歩くわたしたちは、すれ違う人からは、カップルにしか見
えないだろうと思う。それがいいことなのか悪いことなのか。わたし
は何を望んでいるのか。ソウくんの手に触れたいという思いをごまか
すかのように、わたしは彼に、残り少なくなった肉まんを手渡す。

わたしたちの子供みたいな肉まんがつながない手を温めている

                                                                (遠藤しなもん)

 


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